学部長、研究科長メッセージ

最先端の知が集結するキャンパスで共に

システムデザイン学部長 下村 芳樹
システムデザイン学部長・研究科長
下村 芳樹

本学部の名称は、システムとデザインという2つの語からなっています。システムとは、共通の目的を達成するために複数の多様な要素が協調し合う態様であり、私たちが創り出し、使役する人工物の在り方は様々であってもその本質はある種のシステムであると言えます。すなわち,人工物を「正しく」創造し、使役し、管理するためには、システムの本質を知り、得られたその知を「正しく」行使する必要があります。他方、デザインは、例えば工学の領域では多くの場合に設計という語で解釈されます。設計という言葉は、システムを創ることに係るひとの思考と行為を指し、ものづくりの体系とも呼ばれる工学を学ぶ、あるいは行使しようとする者にとって、これほどに身近で、本質的で、かつ大切な概念はありません。

では工学を学ぶ場において、設計の学びの大系と呼べるものが広く網羅的に整備されているのでしょうか? 残念なことにその答えはイエスとは言い難い状況にあります。その理由は、私たちの「システムを創る」という思考と行為の特殊性にあります。社会において我々が正当な知識であると認める際の基本的な条件とは、当該の命題に対して科学による裏付けがされていることです。そして科学による裏付けは、「分析」により事象の真実を解明し、その結果を整理し体系化することにより得られます。しかし元来、自然には存在しない人工のシステムを産み出すという行為は、主としてこの分析とは異なる、ある意味でその逆の操作とも言える「統合」の、そして可謬の(誤り得ることを認める)思考により為されるのです。つまり設計の目的は、事象を解明することではなく、事象を実現すること、存在せしめることにあります。言い換えれば、既存の科学の大系を学ぶことと設計を学ぶことは本質的に異なり、結果として、健全なアカデミズムと科学性のみを重視する工学の教育の場では、この意味に沿う設計の教育は整備も提供も十分にされなかったのです。

過去の工学の大系に設計が正しく包含されなかったことにはもう一つ別の理由が存在します。それは設計の真偽、正誤が常に一意とは限らないこと、つまり主観や文脈によりその内容は異なり得るということです。この設計の性質は、科学が重んじる客観性、再現性、絶対性と両立しません。言い換えれば、設計において本来は最も重要であるはずの、なぜ創るのか、何を創るべきか、何を創らざるべきかを明らかにするための知は、工学や関係する学際において正面から議論されることが現在に至るまで殆ど無かったのです。そしてこの矛盾は、結果として実学たるべき工学と社会との間に決して小さくない乖離を招いてきました。しかし社会においてこの乖離に起因する深刻な問題が多発し、さらにそれらの問題の根底にひとによる設計があるという認識が拡がるにつれ、今や多くの場において、工学と設計に社会の要請に応えるための変化が求められるようになりました。

 システムデザイン学部は、まさにこの社会の要請に応えるために整備された他に類を見ない工学教育と工学研究の基盤です。情報、電気電子、機械、航空宇宙、アートからなる多様かつ最先端の知が結集し、またそれらが柔軟で横断的で斬新なイノベーションをかたち作ることにより、社会に相応しい最新のシステムの在り方とその設計の方法が日々明らかにされ、また、それを広く網羅的に学べる高度な大学教育が展開されています。システムデザイン学部には、ここでしか学べない知、ここでしか為し得ない研究、ここでしかできない体験、ここでしかあり得ない師と仲間との出会いがあります。あなたと我々の出会い無くして為し得ない新しいシステムのデザインを共に実践できる日を心からお待ちしています。

システムデザイン学部長・研究科長
下村 芳樹